片麻痺による片麻痺のためのブログ

「動かない手」を置いてきぼりにしない——温もりから組み立てる、私の日常の工夫

朝、洗面所で水道の蛇口をひねる。 右手に受ける水は少し冷たいけれど、左手をそっと水流に近づけると、手に当たった水がじんわりと温かく感じる。 左手は私の思い通りには1ミリも指が曲がらないし、開くこともできない。

でも、熱さや冷たさ、水が皮膚を撫でていく感覚だけは、ちゃんと脳まで届いている。 水から手を上げて、右手のタオルで左手の水分を拭き取る。 このとき、ただ拭くのではなく、右手のひらで左手の甲から指先までを少し強めに包み込むようにさする癖がついた。

洗面器のぬるま湯

洗面器にぬるま湯を張り、動かない左手をぽちゃりと浸してみる。 湯の温もりが皮膚から伝わってくると、「ここに自分の左手がある」という実感が腹の底に落ちてくる感じがする。 動きはゼロでも、血が巡っていて、ちゃんと温かい私の身体の一部だ。

以前は、動かない左手をどこに置いていいか分からず、膝の上から滑り落ちても気づかないことがあった。 でも、こうして右手でさすったり、ぬるま湯の温度を感じたりして「今、ここにあるよ」と自分に教えてあげると、そのあとの動作が少しやりやすくなる。 ……あ、スムーズと言っても、手が急に動き出すわけではないけれど。

右手だけで顔を洗おうとすると、どうしても左のほっぺたに手が届きにくくて、泡が残ってしまう。 だから、洗面台の端に左の肘を預けて体を少し左に傾ける。 左手が支えの役割をほんの少し果たしてくれるだけで、右手が左顔までしっかり届くようになる。

靴下の踵

洗面所から部屋に戻り、装具をつける前に靴下を履く作業に入る。 左足の靴下を履くときは、右足の上に左足のくるぶしを乗せる「4の字」の姿勢を作る。 このとき、さっきまで温めて意識を向けた左手を、膝の上でお重し代わりにそっと置いておく。

左手は掴むことはできない。 けれど、腕全体の重みを膝の上に預けるだけで、左足がぐらつかずに固定される。 右手の指先だけで靴下の口を広げ、つま先から踵へ引っ張り上げるとき、この「重み」があるかないかでやりやすさがまるで違う。

踵の引っかかりを越える瞬間、つい右手に力が入ってしまう。 右手ばかりに意識がいきそうになるけれど、膝の上に載っている左手の温かさをふと思い出す。 「左手も一緒に作業に参加している」という気持ちで息をふーっと吐くと、肩の突っ張りがすっと抜けて、靴下が踵を通り抜けた。

右手の指先と画面

今、この文章も右手のスマホ入力だけで叩いている。 ……あ、今フリック入力で盛大に打ち間違えた。 右手ばかり使っていると、どうしても首や背中の右側だけがガチガチに凝ってくる。

だから時々、入力の手を止めて、左手の指を右手で一本ずつ伸ばしてさすり直す。 指先を一本ずつ包んで「ここが人差し指、ここが中指」と確かめるように撫でる。 そうすると、ぼんやりしていた手足の位置が、頭の中でハッキリしてくる感覚がある。

動きの指令は届かなくても、感覚の返事だけはちゃんと返ってくる。 その返事を右手で受け取りながら、今日も一つひとつの動作を泥臭く組み立てている。 動かないからといって置いてきぼりにせず、温度と手触りを感じてから動き出すのが、今の私の小さな工夫だ。